小山右人
2019年に最初版 Kindle版 「研究室」 主人公の若手医師「ぼく」は、臨床研修を数年積み重ね、機も熟し
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2013年に最初版 |
新人のセラピストの私は、初任地「癒しの家」で、たった一度の愛の告白を恋人に拒絶され声を断った青年と向き合い頑なさに面食らう。 青年には、うっかりしゃべって二度と心が傷つかぬよう見張る専制君主が君臨していた。 行き詰まりを感じた私は街のカフェで、偶々知り合った杉原という青年が、「声」に悩んでいることを告白され驚く。彼は、コンピュータの奥から、自分を捨てた女の嘲りと罵りが聞こえてくるのだという。
杉原に触発され、私の声に対する認識は、オイディプス神話から想像世界へ、見知らぬ街の彷徨から未知の体験へ、移ろっていく。
杉原はさらに、荒れる真冬の佐渡ヶ島の荒波に身を晒し、「声」に向かって叫ぶことまでやってのける。
その際、かつて佐渡ヶ島に流された世阿弥の怨念の叫びを聞いたという告白に、私は強い衝撃を受け、夜毎に夢幻能の面に脅かされ始める。が一方、声の脅威は、秘められた意表を突く真実もさらけ出す。
〈書いた言葉や、録音した声は消せるが、ひとたび発せられた声は決して消すことが出来ない〉心の虚を突かれた私は、むしろ逆に杉原に先導され、胡散臭い眼科の若い女医や、さらには鼓膜を貫き内耳にまで針を刺す治療を施すクリニックで、死肉と化した自身と、浮遊する魂に分離した自分を眺める衝撃に遭遇し、「自分」の手応えに還る。
癒しとは何だったか? 杉原は、身を持って至難の体験を潜り抜け、甦った自分を見せつけた。声を断った「癒しの家」の青年との意外に饒舌な「対話」も緒に就いた。
一連の出会いと体験を通じ、時空を超えて格段に聴力の幅が広がった私は、ひとたび発せられると消えることのない声の意外な広がりを発見し、「癒しの家」の空に、踊り揺らめく人々、賑やかな楽隊などの幻影に誘われ、木々の梢に渦巻き、回るのを見ながら、さらに高い声の導きへと・・・。
冒頭、主人公は路上で突如稲妻のような衝撃に打たれ昏倒するが、自分を奇跡的に創造性の高みと、画家として世俗の成功に導いた核心的な胸の内の宝、「珠」は守り得たと悪夢に呟く。耳の奥には怪しげな女の高笑いが響き、珠をつけ狙う挑戦を告げていた。見えてきた女の正体は、意外にも気を患った後、すでに冥界に住む存在となった、かつてのライバル女性画家。主人公は、どん底から奇跡的に画家として成功の極みにまで導いた心の「珠」を必死で守ろうと、冥界の女と、この世にも無い闘いに挑むが・・・。希薄で微妙な闘いを、極繊細な筆力で存分に描き切った小山右人の細やかな彩りの文体と精神科医のとしての独特の発想にも、是非ご注目!
Kindle版 「熱帯植物館」 |
ねっとり熱帯植物樹液の匂い充ちるネペンテスの領域に籠り、夢幻の思索に魔界まで彷徨う、父に反抗し医学部中退したスフィンクス兄貴。弟のぼくに悲嘆の謎解き問い掛け、兄貴のお株奪って謎の死遂げた恋人無限に追い、難病の神経病理まで解き、蓮の葉たゆたう池に到達し、水面に目をしばたたかせると、向こうに佇む姿は・・・!